現代口語訳 秋山記行

現代口語訳 「秋山記行」 (信濃古典読み物叢書8)

昔の人の旅行記を読むのは面白い。

「我々里の者は、さまざまな悩みを心身にため、欲望をほしいままにし、鳥や魚の肉を食べ散らし、悩みや悲しみで心を迷わして、日々暮らしている。これでは夏の虫が火に入り、流れの魚が餌にかかるように寿命を縮めるばかりである。少しでも暇を手にすると、私のように金銭欲や名誉欲に走り――」「できるなら、私もこの秋山に庵を結んで、中津川の清流で命の洗濯をしたい」

都市生活に疲れた現代人の嘆きのようなこの文章、いつ書かれたものだろうか。

著者の鈴木牧之は江戸時代の商人。幾つかの旅行記を残しており、中でも、現在も秘境と言われる秋山郷を訪ねた「秋山記行」で知られている。山奥の豪雪地帯で当時の人々がどう暮らしていたのか、衣食住や言葉、風習について詳細に綴られており、大変貴重な記録。冬は火を焚き続けなくては寝られないような豪雪地帯で、食糧も乏しい。一方で長寿で健康状態の良い老人が多く、牧之はそこに人間本来の生き方を見る。

秋山郷に狩りに訪れたマタギの聞き取りも行っており、草津温泉を市場に東北から北関東、信越の山々まで自由に行き来していた山人の社会を生き生きと今に伝えている。

この本は信州大付属長野中の創立50周年記念でまとめられた現代語訳叢書の一冊。貴重な資料を後世に伝える良い仕事。

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