カズオ・イシグロ「夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」
カズオ・イシグロの短編集。音楽をめぐる五つの物語。
「わたしを離さないで」などを読むと長編の作家という気がするし、実際に発表されている作品もほとんどが長編だが、この作品集を読むと、その魅力は作の長短には関係ないということが分かる。珠玉の一冊。
「老歌手」「降っても晴れても」「モールバンヒルズ」「夜想曲」「チェリスト」。どれも英国小説らしい喜劇性とユーモアの中に、報われない才能や、人と人との理解しあえなさなど、人生の不条理や悲哀がちらりと顔をのぞかせている。
人生の一場面を切り出し、書かれている言葉よりも、書かれていない部分の方が雄弁であるという点で、演劇的な作品群でもある。実際に「老歌手」「夜想曲」「チェリスト」の3本を再構成して2015年に舞台化(長田育恵脚本、小川絵梨子演出)されている。原作ものにありがちな生硬さも感じられず、良い舞台だった。