ディアスポラ

グレッグ・イーガン「ディアスポラ」

ちょっと何言ってるか分からないという小説はいろいろあるけれど、グレッグ・イーガンの代表作とも言えるこの「ディアスポラ」もなかなか。といっても文学的な表現が意味不明というのではなく、文章は明解だが、膨大な物理学的、宇宙論的考察に自分のような文系人間は全くついていけない。ハードSFの極北。

肉体を捨てて自らをソフトウェア化し、ポリスと呼ばれるネットワーク上で生きる人々が人類の主流を成す世界で、地上には一握りの肉体人が遺伝子的改変を経て残っている。この設定だけなら古典的だが、イーガンの想像力はここから遥か遠くへと旅をする。

中性子連星の衝突によるガンマ線バーストで地球上の生物は壊滅。ポリス市民は自分達のコピー千セットを宇宙へ送り出し、異星生命体との接触を図る。やがて不自然に重い同位体の元素で作られた星にたどり着き、その余分な中性子の中に先進知性体の残したメッセージを見つける。

大抵のSF作品は、いくら設定が凝っていても、そこに描かれるドラマは現代の地球の世界観の延長に過ぎない。イーガンの作品はまさに世界設定とドラマが不可分で、そこでは思考や生命のあり方も不変ではない。

波動関数やリーマン空間といった物理学用語が次々と出てきて、素粒子がワームホールの入り口という仮説が語られ、当たり前のように五次元空間が描写される。正直なところ、作中の理論の妥当性も分からなければ、その機微を楽しむこともできないが、それを抜きにしても冒険活劇的な面白さがある。これまで読んだ小説の中で、スケールだけなら他に比べられるものが無いほど壮大。

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