とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起

伊藤比呂美「とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起」

身辺雑記である。私小説と呼ぶべきか、エッセイと呼ぶべきか、あるいは散文詩と呼ぶべきか。

両親の介護、年の離れた外国人の夫との喧嘩、子育ての難しさ、外国と日本を行き来する生活の苦労。そうした日々の出来事が、詩人らしい独特の文体で綴られる。語られている内容より、文章そのものこそが本質と言ってもよいかもしれない。ですます調で、ユーモアあふれる文体は親しみやすく、その文章の中に、中原中也や宮沢賢治、梁塵秘抄、説経節、浄瑠璃などからさまざまな言葉が借用され、溶け込んでいる。

書かれているのは個人的な体験だが、人生の苦しみは個別的であると同時に普遍的でもある。人生に突き刺さるさまざまなとげを、著者は受け止め、抜こうとあがき、ときには悪態をついて、巣鴨のとげぬき地蔵に手を合わせる。誰もがこんなふうに、とげを一つ一つ抜こうとして、一生涯をドタバタして終えるのかもしれない。

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