戦国時代屈指の悪役で、謀将、梟雄と恐れられた宇喜多直家をめぐる連作短編集。表題作はオール讀物新人賞を受賞した著者のデビュー作だが、短編とは思えない広がりを持ち、作家としての大器を感じさせる。
視点と時間が異なる6編の物語を通じて、宇喜多直家がなぜ家族の命をも顧みない冷酷な策謀家になっていったのかが明らかになる。手段を選ばない姿勢の裏にある覚悟と、幼少期の体験にまで遡る深い苦しみ。家族や、主君の浦上宗景をはじめとする周囲の人物のドラマも書き込まれ、下克上の世の複雑な顔が浮かび上がる。
宇喜多直家をめぐる物語の輪は最後の「五逆の鼓」で綺麗に(やや説明しすぎの印象はあるものの)閉じられ、小説的な面白さにも富んでいる。