郊外の国道沿いにチェーンのレストランや衣料品店が並ぶ無個性な地方都市。そんな街に暮らすことの“退屈”を主題とした短編集。主人公のほとんどは10~20代の女性で、都会に出て行くことに憧れているか、かつて暮らした都会に心を残してきている。
地方都市の描き方がステレオタイプすぎる気はするものの、そのステレオタイプがあながち間違いでもないのがまさに地方の閉塞感であり、地方から都会に出て暮らしている人間として、個人的に共感する部分も多かった。
ただ、同時に感じたのが、ここに描かれている地方の“退屈さ”は少し前の時代のものではないかということ。地方の息苦しさには、社会の狭さに起因する鬱陶しさと、サブカルチャーの貧しさによる退屈の二つの側面があると思うが、この小説で描かれているのはもっぱら後者。
振り返ってみれば、自分が進学で都会に出てきて最初に感じた喜びは、本屋やレコード屋の充実という単純なものだったが、今や買う本の9割以上が電子書籍かネット通販だし、音楽も配信で聴くようになった。
地方が退屈で、都会に行けば豊かな文化があると無邪気に憧れることができた時代は去ったような気がする。今、自分の日常の退屈さを場所のせいだと感じている人は、きっとどこにいっても退屈だろう。