中島らも「今夜、すベてのバーで」
重度のアルコール依存症だった著者が、連続飲酒で入院した病院での日々をもとに綴った小説。「酒をやめるためには、飲んで得られる報酬よりも、もっと大きな何かを、『飲まない』ことによって与えられなければならない。それはたぶん、生存への希望、他者への愛、幸福などだろうと思う」。飄々としたゆるい描写の中に、ところどころ透徹した視線が見え隠れするのが著者らしい。
「飲む人間は、どっちか欠けているんですよ。自分か、自分が向かい合っている世界か。(中略)それを埋めるパテを選び間違ったのがアル中なんですよ」
「欠けていない人間がどこにいる。(中略)痛みや苦しみのない人間がいたら、ここへ連れてこい。脳を手術してやる」
登場人物のやりとりは全て著者自身の自問自答だろう。淡々とした文章だが切実さを持って迫ってくる。