中編2本。表題作はベネズエラを舞台に、西洋と先住民族の文化の相克を通奏低音とした冒険小説。
首都カラカスに住む日系二世の“ぼく”は、文化人類学者の叔父とともに密林の奥地に住むという“白いインディオ”を探す旅に出る。叔父が連れてきた助手たちは明らかに学究の徒ではない危険な香りを漂わせている。
助手たちは何者なのか。叔父の真の目的は何なのか。奴隷貿易が本格化する以前に連れてこられたドイツ人労働者の末裔という白いインディオは実在するのか。後半に行くに連れて物語は緊迫感を増していく。
鮮やかなラスト。中編小説として完成されているが、長編でこそ真価を発揮する作家だけに、この続きも書いていればどれほどの作品になっただろうかと妄想してしまう。
併録の「メビウスの時の刻」は冒険小説ではなく、ミステリー。複数の視点から、短いモノローグを積み重ねていく構成が著者の作品では珍しい。