庄野潤三「夕べの雲」
多摩丘陵の上の一軒家、夫婦と3人の子供。庭の風よけの木をどうするか悩んだり、子供が兄弟でじゃれ合っていたり、駅前で梨を買ったり……。何でもないようなことが幸せ、という内容が続く。何かを思い立っても、いつかそのうち、で穏やかな日々は過ぎていく。 団地造成で切り開かれていく近くの山の描写が唯一その時間が失われることを暗示するかのように時折挟まれる。
最近の言葉で言うなら、日常系の純文学版か。幸せで、爽やかな作品という感想を持つ人も多そうだが、個人的には読みながら、どこで破局が訪れるのか、落ち着かない気持ちになった。ぬるま湯に使っているような心地良さと、少しずつ湯が冷めていく予感。それは心配性な自分を映しているだけかもしれない。小説は穏やかなまま終わる。
共感、郷愁、つまらない、どんな感想を持ったか、読んだ一人ひとりに聞いてみたいような作品。