サン=テグジュペリ「夜間飛行」
サン=テグジュペリの名作。徹底したリアリズム小説であると同時に、全編を通じて詩的な美しさをたたえている。中でも、一縷の光を求めて雲の上に出る場面は言葉を失うほど。
計器も無線も未発達だった時代、暴風雨の雲の中、パイロットのファビアンは絶えきれず上昇を続ける。雲の上に出てしまえば、もうどちらが陸か海かも分からない。燃料は残り少ない。これからそこに向かって墜落していく雲海は月明かりに照らされ輝いている。
巻末に訳者による丁寧な解説が付いていて、この作品が極めて巧みに構成されていることが分かるが、闇の中を飛ぶ飛行機と、大地に点在する小さな灯りのイメージを読者の頭の中に刻んだだけでも、この作品は文学的に成功したと言っても良いと思う。