直木賞受賞作。手練れの恋愛小説。表題作は、かつて恋人だった男女が再会した夜の微妙な空気を描く。互いに若い頃より社会的な立場が上がり、優越感と郷愁が入り交じる、その微妙でいやらしい緊張感が著者の真骨頂。
こういう気取った(そしてかすかに毒を含む)女性視点の恋愛小説は、最近はあまり目にしない。豊かな、というより豊かさに無邪気に憧れることができた80年代という時代をよく表している気がする。
完成度の高さという点では表題作が白眉だが、体験したことしか書けない新人作家の姿を描く「エンジェルのペン」と、薄毛に悩む男たちの物語「てるてる坊主」の方がユーモアがあって、個人的には面白く読めた。最後の「京都まで」は、サバサバ系キャリアウーマンが年下の優男にはまってしまう話。