12万円で世界を歩く

下川裕治「12万円で世界を歩く」
「12万円で世界を歩くリターンズ」

 

近年、旅の景色は大きく変化した。

名著「12万円で世界を歩く」が刊行されたのは1990年。東南アジアからアメリカ、シルクロード、ヒマラヤまで、毎回、往復航空券代含め12万円で世界各地を旅するという雑誌の企画で、著者の旅行作家としてのデビュー作でもある。

掲載紙が週刊朝日だったことを考えると、旅行ガイドの側面より、貧乏旅行を(縁のない人に)面白おかしく見せるという趣旨が強かったのではないかと思うが、これを大学に入ったばかりの頃に読んで、「面白い!」というより、「そうか、12万円用意すれば世界中どこでも行けるのか」という感想を持ったのが、その後の自分の旅の出発点となった。

「リターンズ」は、還暦を超えた著者が30年ぶりに同じルートを旅する企画。 「赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編」と題された本書では、「バンコクから赤道へ」「アンナプルナ・トレッキング」「グレイハウンドバスで米国一周」が再現されているほか、バングラデシュの村で12万円で暮らす体験が綴られている。

この10年あまりで、まずLCCの普及が旅を大きく変えた。バックパッカーが安さを求め、オンボロバスで10時間も20時間も揺られたのは過去の話。いまやバスよりも飛行機の方が安いくらいで、長距離バスのメリットがほとんど無くなった。

ネパールでは山岳部の道路延伸、観光地化、日本人客の減少が旅の光景を変え、米国では物価上昇が貧乏旅行を直撃。物価が停滞した日本では30年前も今も12万円の価値はあまり変わっていないが、相対的に日本が安い国になったということが「貧乏旅行」を通じて浮き彫りになる。

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