アブドルバーリ・アトワーン「イスラーム国」
ISの成り立ちは『テロリストが国家をつくる時』が分かりやすかったが、この本はそうした内容に加えて、近代以降の欧米とアラブ諸国の外交や、アラブの春以降の各国内部の事情などが独自の情報も交えて詳しくまとめられており、現在の中東情勢を俯瞰する良書。ISの掲げる「カリフ制国家の再興」という目標が決して時代錯誤な狂信的なものではなく、残虐性のPRもよく計算されたものだということが分かる。ワッハーブ派とサウジアラビアの関係から、アフガン紛争、ジハード組織の拡散あたりまでは多くの本に書かれているが、イラク戦争以降はまだ体系的にまとめた書物が少なく、日本での報道も散発的なため勉強になった。
読み終えるのに時間がかかり、期せずしてその間にテロがあったが、その後の反応を見ていると、改めてイスラム圏への(というより歴史そのものへの)無関心に愕然とする。中東でも多くの人が殺されている(ほぼ同時期にレバノンでも大規模なテロが起きている)と指摘したいわけではなく、ただ、これほどの衝撃を受けても、フランスへの追悼と、フランスだけを追悼することへの反発ばかりで、なぜ、に興味を持つ人が少ないのが不思議でならない。
言葉は悪いけど、単純な知的好奇心でも、もっと知りたいと思わないのだろうか。平和への祈りも時として他者への無関心と表裏一体に見える。