中編2本。表題作は、旅行に行こうと思っていた連休に友人の結婚式のスピーチと2次会の幹事を任され、当日は会社の上司の父親の通夜に呼び出されるというドタバタを描く。主人公のヨシノは食事のタイミングを逃し、猛烈な空腹感の中、周りに振り回され続ける。
喜劇だが、単純に不運を嘆くだけでなく、そこに幸不幸では割り切れない人生の複雑さと、ままならないからこそという人間関係の哀歓を織り込んでいる。
併録の「冷たい十字路」は高校生が起こした自転車事故を巡って、周囲の人々の感情の揺れを描く。歩道を猛スピードで走る自転車に対する憎悪が色濃く滲んでいるのは著者らしいなと笑いが漏れたが、ユーモアは控えめの硬質な作品。