薄情

絲山秋子「薄情」

舞台は群馬。地方都市の郊外。タイトルに「薄情」とあるのは、主に語り手の宇田川静生の感情の起伏の無さ、人間関係の粘りの無さを表しているが、物語が展開する農村と市街地の境界の、景色の密度、人間の密度の薄さもその言葉にどこか重なる。

宇田川はいずれ伯父の神社を継ぐ身で、季節労働やバイトをしてその日暮らしをしている。都会から来て木工などをしている「鹿谷さん」の「変人工房」に時々顔を出すなど、人付き合いが悪いわけでは無いが、誰とも深く関わろうとしない。自身の内に欠落感を抱えつつも、だからどうしようという意思もない。

小説の視点は彼の薄情さを責めるわけではなく、ただ淡々と寄り添う。“薄情”の上に築かれる人間関係を肯定するようなラストはほのかに温かい。薄情は無情ではない。時には気遣いの表れでもある。

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