著者は言うまでもなく「よこはま・たそがれ」などで知られる作詞家で、作家としても多くの作品を残している。本書収録の表題作と「老梅」で直木賞を受賞。他に「貢ぐ女」「弥次郎兵衛」が収録されている。
ヒモに貢ぐ女や、愛人と家族の愛で揺れ動く男など、登場人物は皆、したたかなようでいて自分の感情を持て余している。まさに歌謡曲の世界。どこか古めかしくも普遍的な男女の物語。
その中で、表面的には最も淡々とした筆致で、やや散漫にも感じられる表題作が心に残る。音楽ディレクターと作詞家の関係を軸とした物語。恋愛の機微よりも人生における挫折を見つめていて、そこに著者の作家だけでなく一人の人間としてのまなざしを感じる。