ブッカー賞へのノミネートで今年改めて注目されたが、作者にとっては初期の作品(1994年刊)。
さまざまなものと、それにまつわる記憶が消えていく島。秘密警察による「記憶狩り」が、残ったもの、記憶も摘発していく。ディストピア小説のようだが、むしろ記憶することや、言葉、人が抱く概念にまつわるセンチメンタル、ペシミスティックな寓話(SF的なものを求めて読むと疑問点が多過ぎて入り込めないだろう)。
鳥、フェリー、小説……人類は言葉を通じて、さまざまな概念を作り出してきた。人を人たらしめるそうしたさまざまな概念は天から与えられたものではなく、不断の努力で守っていかなくては消えてしまう。刊行から25年あまり経って、政治からメディアまで、言葉が軽視される時代に改めて注目されたのも当然かもしれない。