怪しい来客簿

色川武大「怪しい来客簿」

戦前から戦後間もない時期の、社会の片隅のつれづれ。エッセイのような筆致で書かれた連作短編。

これは諦観なのか、寛容なのか。著者のまなざしは冷め切っていると同時に、とても優しい。不器用な自分に限りない劣等感を抱えつつ、それを観察者の冷めた目で見てしまう。屈折した人間だけが持てる温度。

医師の過失に「ミスだとしたら、私はこれまで他人のミスに対して寛大でなかったことは一度もなかった。その基本方針をまげるわけにはいかない」「自分であれ他人であれ、一度ミスをおかしたら、助けてくれるものは何もないのだという現実に誰でも直面してしまう。だから寛大にならざるを得ない」。

ユーモアとともに、著者の人を伝える作品集。

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