落語家は自身で新作を創ることが多く、漫才や放送番組なども手がける「演芸作家」ではなく、「落語作家」を名乗る人は少ない。著者は桂枝雀のファンから専属作家になり、次第に一門以外からの依頼も増え、前例のなかった「専業の落語作家」として活躍を続けている。これまでに創った新作落語は263本(江戸落語や古典の改作も含めると倍以上!)にもなるという。
本書は「枝雀らくごの舞台裏」「米朝らくごの舞台裏」「上方らくごの舞台裏」に続く「舞台裏」シリーズ第4作。落語がどう作られるのかといった創作の裏話から、演者である落語家のさまざまなエピソードまで読み応え十分。
江戸の古典で、古今亭志ん生のイメージが強い「火焔太鼓」を上方に移植した際の工夫(武士を商人に置き換え)などは、東西文化の比較としても興味深い。
デビュー作「幽霊の辻」をはじめ、著者の新作落語は東西で定着したネタも多く、戦後の落語史の一側面として、ファンのみならずとも必読。著者の歩みに触れ、「古典」も最初はこうして作られ、改作を重ねて現代に残ってきたのだということが分かる。