主人公は駆け出しの女性落語家・甘夏。師匠が突然何の前触れもなく失踪してしまった彼女と、二人の兄弟子を中心とした物語。
今でこそ女性落語家は少しずつ増えてきたが、それでもまだまだ圧倒的な少数派。業界内やファンからの偏見だけでなく、男性の芸として技術を積み上げてきた落語を女性が演じる苦労は計り知れない。
著者の筆はその悩みに寄り添いながら、彼女を取り巻く人間模様、人生の悲喜こもごもを、大阪らしい人間の体温とともにつづる。
「古典」として敬遠するには惜しい落語の魅力を生き生きと伝える作品。物語の中に落語のネタが自然に溶け込んでおり、落語の知識がゼロでも楽しめる。大阪の街を舞台とした人間ドラマの新たな傑作。