井上ひさし「父と暮せば」
原爆投下後の広島。娘の幸せを願う父の亡霊と、幸せになってはならないと自分を責める娘。随所にちりばめられた井上ひさしらしいユーモアがとにかく切ない。それでも、幻とはいえ、幸せを祈ってくれる父の姿を思い描くことが出来た娘は幸せだったのだろう。
「あよなむごい別れがまこと何万もあったちゅうことを覚えてもろうために生かされとるんじゃ。おまいの勤めとる図書館もそよなことを伝えるところじゃないんか」
「人間のかなしいかったこと、たのしいかったこと、それを伝えるんがおまいの仕事じゃろうが」
語り伝えるという井上ひさしの決意が全面に打ち出された作品。