井上理津子「さいごの色街」
遊廓の雰囲気を今なお残す大阪・飛田新地。文章の端々に、興味本位、という執筆動機が滲むが、取材はおろか、見学に立ち入ることも憚られる土地だけに、よくここまで書けたなと思う。取材対象を騙し討ちにする不誠実な取材過程も、売春の是非に対する自らの迷いも明らかにしつつ、飛田に生きる人びとの話を聞いて回った記録は読み応えがある。
読んだ本の記録。
大澤真幸「夢よりも深い覚醒へ ―3・11後の哲学」
リスク社会では中庸は最も無意味な選択肢になり、人は「リスクの致命的な大きさ」より、「リスクは事実上起きない」に傾いてしまう。命と経済性の天秤――倫理的に答えは明らかだが、その命が、想像の及ばない不確定な未来の命になった時、それは答えの無い“ソフィーの選択”になる。
原発事故を総括し、脱原発への思想を立ち上げようという試み。
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姜尚中、中島岳志「日本 根拠地からの問い」
近代以降の日本における「保守」の系譜をなぞりつつ、パトリとステートの関係を考える対談。
現在の日本には本来の意味で保守と呼べる思想は無い。
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フランセス・アッシュクロフト「人間はどこまで耐えられるのか」
人間はどこまで高く、深く、暑く、寒く、速く…。
タイトルはともかく、内容は硬派な生理学の本。人間の挑戦と科学者による検証の歴史を振り返りつつ、身体の仕組みを、減圧症や高山病、熱中症の仕組みなどを交えて詳しく解説し、人間の限界を探る。
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