空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集―

寮美千子「空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集―」

少年刑務所の教室で書かれた57篇の詩。技巧の全くないシンプルな言葉だけに、純粋な気持ちがすっと伝わってくる。特に家族に関する詩が多く、中には抑圧などの微妙な歪みが感じられるものも。

「犯罪者」とどう向き合うか。少年犯罪は家族や周囲の環境の影響が大きいだけに、更正は非常に大きなテーマだが、それを抜きにしても一冊の詩集として胸を打つし、詩とか言葉の原点を感じさせる。

夢よりも深い覚醒へ ―3・11後の哲学

大澤真幸「夢よりも深い覚醒へ ―3・11後の哲学」

リスク社会では中庸は最も無意味な選択肢になり、人は「リスクの致命的な大きさ」より、「リスクは事実上起きない」に傾いてしまう。命と経済性の天秤――倫理的に答えは明らかだが、その命が、想像の及ばない不確定な未来の命になった時、それは答えの無い“ソフィーの選択”になる。

原発事故を総括し、脱原発への思想を立ち上げようという試み。
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プロメテウスの罠2

朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠2」

良くも悪くもドキュメンタリー的で物足りない部分もあった1巻より、再処理の問題や気象庁の津波予測のミスなど、新聞らしい調査報道が増えた。英仏を通じた核燃料再処理も総括原価方式のような仕組みでコストが肥大化し、関係会社の間で環流して電気代に上乗せされている。下北半島の開発史も興味深い。福島の浜通りも同じ構図だけど、夢が先行した開発はやがて行き詰まり、歪んでしまう。

みちのくの人形たち

深沢七郎「みちのくの人形たち」

両腕のない仏さまと人形たち。逆さ屏風の影で消された無数の子の命。生きているもの、消えたもの、その境界はあいまいで、そこには理由も意味も無い。深沢七郎の文章はからっからに乾いていて、感傷というものが無い。あたたかくも無いし、冷たくも無い。表題作のほか、「秘戯」と「いろひめの水」も印象的。

秘密

東野圭吾「秘密」

バス事故で亡くなったはずの妻。その意識が生還した娘に宿った時、2人はどう生きていくか――。ハッピーエンドとは言えないけど、ラストも余韻が残る。既視感のある題材だが、全体を一気に読ませてしまう文章の読みやすさと物語のテンポの良さはさすが。

人間はどこまで耐えられるのか

フランセス・アッシュクロフト「人間はどこまで耐えられるのか」

人間はどこまで高く、深く、暑く、寒く、速く…。

タイトルはともかく、内容は硬派な生理学の本。人間の挑戦と科学者による検証の歴史を振り返りつつ、身体の仕組みを、減圧症や高山病、熱中症の仕組みなどを交えて詳しく解説し、人間の限界を探る。
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抱擁

辻原登「抱擁」

2・26事件直後、侯爵邸で働く小間使いの語り手と、見えない“誰か”を見つめる5歳の令嬢。ゴシック趣味で舞台設定は良いのに、話が短すぎるからか、どこか物足りない印象が拭えなかった。ラストは余韻が残る。

被差別の食卓

上原善広「被差別の食卓」

フライドチキンからあぶらかすまで世界の“ソウルフード”を巡る旅。差別されているから、捨てられるものを使った料理を生み出す。忌避されるものを食べるから、差別される。新書だし、食べ歩きルポで内容的な深みはないけど、著者自身が被差別部落出身ということもあり、実体験を交えた語りが興味深い。興味本位ではなく、共感に満ちた内容。

古代ローマ人の24時間 −よみがえる帝都ローマの民衆生活

アルベルト・アンジェラ「古代ローマ人の24時間 −よみがえる帝都ローマの民衆生活」

古代ローマ人はどんな暮らしを送っていたのか。ローマの街並み、市場の喧噪、家々の作り、部屋の調度、人々の服装、髪型、夜の営み……旅番組のカメラが街中を散策していくように、夜明けから深夜までのローマの光景を描写していく。

中でもインスラ(集合住宅)の説明が興味深い。今から2000年前に既に現代のような生活が生まれ、何万棟もの高層住宅がひしめき合っていた。そのライフスタイルは、エネルギー源が電気か人力(奴隷)か以外にはほとんど違いが無いように思える。

テルマエ・ロマエの最高の副読本。かなり面白い。