文学界新人賞と芥川賞の受賞作。仕事で赴任した岩手で知り合った日浅という友人との関係を軸とした物語だが、その人物像を含めて、非常に抑制的な筆が印象的。
日浅は、倒木など何かの“崩壊”に強い関心を示す。後半、その日浅の嗜好が暗示していたかのように東日本大震災が起こるが、著者の淡々とした筆は揺らがない。“書かないこと”を意識し、計算して削ぎ落とした文体と構成は、技量の高さを感じさせる一方、そこに切実なものはあまり見出せず、長編小説のプロローグというような印象も強い。
語り手は性的マイノリティであることが示されており、全体として一種の恋愛小説と読むこともできるだろう。
この慎重な筆が、今後作家としてどんな作品に結実していくかに興味が湧いた。