つげ義春「貧困旅行記」
鄙びた温泉地を旅し、侘びしい旅籠で煎餅布団にくるまる。世の中から捨てられたような気持ちになり、そこに安らぎを感じる。タイトルから想像されるような貧乏旅行記ではなく、内容も淡々としているが、この時代の日本を旅してみたかったなと思わせる味がある。
「貧しげな宿屋で、自分を零落者に擬そうとしていたのは、自分をどうしようもない落ちこぼれ、ダメな人間として否定しようとしていたのかもしれない。(中略)自分を締めつけようとする自分を否定する以外に、自分からの解放の方法はないのだと思う」