蛍の森

石井光太「蛍の森」

ハンセン病に対する苛烈な差別を正面から描いた石井光太の小説。一歩間違えばただ悪趣味なだけになってしまいかねない題材だが、四国の山中にあったカッタイ寺を舞台に、療養所に隔離されることを拒み、社会から姿を消したことで歴史に残らなかった存在を蘇らせることに成功している。

カッタイ道のことは宮本常一の著作などで知っていたが、正面から取り上げた文章は読んだことがない。著者もおそらくフィクションでしか書き得ないと思ったのだろう。『遺体』でも感じたが、著者は狭義のノンフィクションより、吉村昭のような記録小説的な手法の方が向いている気がする。

まるで横溝正史の小説のような山村を舞台にしたことで、差別を社会全体の問題として提起しきれているかは少し疑問が残るが、そのぶん、ミステリ小説としてはかなり引き込まれる。

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