2015年下半期の芥川賞受賞作。
「異類婚姻譚」と言えば古くからある説話の一類型だが、ここで描かれるのは現代の夫婦関係。会社員の夫と暮らす専業主婦の視点で、現代の説話は綴られる。
家では何も考えたくないと言い、テレビのバラエティーとスマホゲームに没頭する夫。そんな夫の姿に苛立ちつつも、平穏な主婦の生活に安住している自分。やがて夫は会社を休みがちになり、何かに憑かれたように毎晩揚げ物を作り続けて主婦のようになっていく。
夫婦や身近な人間が互いにどこか似ていくのは、「人間は他者の欲望を欲望する」(byラカン)のように難しいことを言わなくても、実感として分かることだろう。異類と思っていた相手の中に、ある日、自分の姿を見つける。それを喜劇と感じる人もいれば、ホラーと思う人もいるかもしれない。
最後に夫は芍薬に姿を変え、山に捨てられる。これまで、小説にも戯曲にもどこか破綻したようなところがある作家で、それが魅力だったが、今作は巧みに構成されている。劇作家らしい、鮮やかで余韻の残るラストがみごと。