怪獣記

高野秀行「怪獣記」

トルコ東部のワン湖に棲むという謎の巨大生物ジャナワールの真偽を探る旅。

コンゴを舞台にした「幻獣ムベンベを追え」など、UMAを巡る旅を続けてきた著者だが、ジャナワールの存在には否定的で、これまで調査対象とは考えていなかったという。それが、なぜかトルコの研究者による詳細な研究書を日本の東洋文庫で見つけ、興味を持ち始める。その研究書にはジャナワールを目撃した人物の住所一覧までもが載っており、真実を確かめにトルコへ飛ぶ。

その研究者がイスラム原理主義グループの高名な指導者だったり、ジャナワールの話題がそもそもクルド問題から目をそらすための政府のプロパガンダという指摘が出てきたり、さらには現地ではジャナワールの存在を喧伝する極右グループが現れたり、話は二転三転。ジャナワールはフェイク……と結論が出かけたところで、最後に驚きの展開が待っている。

ワン湖周辺は、長くトルコ政府に弾圧を受けてきたクルド人の居住地域。クルド問題はトルコ国内では大きな声で語る事が許されない話題だが、地元の人々との会話の端々に政府への不満が滲む。

ワン湖を一周しながら、湖畔の村々を周る場面の描写が美しい。自分はワン湖までは行かなかったが、以前トルコのディヤルバクルからシリア東部のクルド人地域を旅したことを懐かしく思い出した。穏やかですてきな土地だった。

 

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