桂春団治

富士正晴「桂春団治」

戦前の落語界で一世を風靡した桂春団治の評伝。上方落語を巡る状況は今に至るまで時代とともに目まぐるしく変わっており、戦前と刊行(1967年)当時のそれぞれの空気が感じられて興味深い。

併録の二代目林家染丸と妻とみの評伝である「紅梅亭界隈」と、春団治の最初の妻、東松トミの評伝も含めて、どれを読んでも印象的なのが、落語家の妻の苦労(落語家に限らず、この時代は文楽でも歌舞伎でも芸人の妻は皆同じか)。

亭主はほとんど家に金を入れず、一家の生計を妻が支え、さらに女遊びを繰り返してもそれを芸の肥やしとして受け止める度量。春団治の妻トミは、金持ちの後家に惚れ込まれた春団治とその周囲に無理矢理離縁に追い込まれながら、晩年まで付き合いを続け、必要な時に金の工面までするという……。春団治に限らず、こうした語られない女性たちの存在の上に、名人の芸は、のびのびと、破天荒に育っていったのだろう。

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