きもの

幸田文「きもの」

明治の末に東京の下町に生れたるつ子。着物の肌触りとともに残った数々の記憶。祖母の姿勢に生きていく上でのたしなみや気構えを学び、姉たちの姿から成長して人が変わっていくことの、両親の姿から生きることの悲哀を感じ、少しずつ成長していく。

何をどう着るかは、どう生きるかの現れでもある。「崩れ」でも感じたが、幸田文の感性の鋭さと、それを文章で表現する際の瑞々しさは全く古さや老いを感じさせない。江戸っ子の気風のようなものかもしれない。終盤の関東大震災の描写もとても現実感を持って迫ってくる。

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