石牟礼道子「苦海浄土」 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)
「苦海浄土―わが水俣病」に第2部「神々の村」、第3部「天の魚」をまとめた世界文学全集版。どのページを開いても胸が苦しくなるような言葉が綴られ、あまりの密度の濃さに読み進めるのにかなり苦労した。
よく知られた第1部では失われた世界、前近代の残光のような幸福感を描いていて、逆説的な人間賛歌でもあったが、第2部からは患者組織が分裂、訴訟に至り、水俣市民に憎まれ、国民から厄介者とされていく過程が生々しく描かれている。
共同体が壊れた後に漂う深い絶望感と、近代の論理に踏みつけにされた人々の行き場の無い深い怨み。チッソ本社での延々と続くやりとりは読んでいるこちらが消耗する。
ノンフィクションでも無いし、小説と呼ぶのもしっくりこない不思議な作品だが、戦後文学の最高の成果の一つであることは間違いない。
今読めば、原発事故後の社会の姿が容易に連想されてしまう。この作品が普遍性を持ってしまうことが悲しい。