毛沢東の大飢饉 史上最も悲惨で破壊的な人災

フランク・ディケーター「毛沢東の大飢饉 史上最も悲惨で破壊的な人災 1958-1962」

文化大革命の前史であり、人類史に残る政治的失敗である「大躍進」の全体像について、綿密な資料収集をもと描いた労作。何より、中国共産党の恥部についてここまでまとめられたことに驚く。中央の档案館(公文書館)にはアクセスできないため、地方の档案館の資料を用い、当時の悲惨な状況を詳らかにしている。

農産物や鉄の生産目標だけが重視され、数字は改竄され、粗悪品が蔓延する。豊作の報告を信じた毛沢東は休耕地を増やせと指示し、“余剰生産物”が輸出に回され、国民は飢えていく。鉄鋼生産量を達成するため、鉄器時代のような土法炉に鍋釜が放り込まれる。農家の言葉に耳を傾けず、生産量が増えるはずと密植が強制される。肥料にするために何千軒もの家が解体される。害虫退治として雀を駆除し、結果的に害虫が増える。まるでコントのような悪夢が国家規模で繰り返された。社会が軋む中で、過度の懲罰、拷問が蔓延り、飢えた人々は死体まで食糧とした。

これまで大躍進による死者は2000~3000万とされることが多かったが、著者は各種資料からの推計として、4500万人という驚くべき数字を出している。

人間の理性で社会を作り替え、経済を発展させる。それは理想だが決して上手くいかない。その二十世紀の経験を雄弁に伝えている。

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