プログラム

土田英生「プログラム」

MONOの芝居はハズレがない。毎回、対話の面白さをたっぷり堪能させてくれる。しかも、ただ笑って終わりではなく、登場人物一人一人の置かれた立場やその言葉を通じて、現実の生活や社会についても振り返らされる。主宰の土田英生氏による初の小説であるこの作品も、それは変わらない。

舞台は近未来。移民が増えた日本社会に対する反動として、東京湾の人工島に“古き良き日本”の面影を残す「日本村」が作られる。そこには血統的に純粋な日本人のみが暮らすことを許され、外部からの観光客や、移民の血が混じる住民は例外として目印となるバッジの装着が命じられる。ある日、その島に設けられた“夢の次世代エネルギー”の発電所で事故が起こる。

いくらでも社会性のあるメッセージを込められそうな設定だが、そこを掘り下げることはない。SF的な設定はあくまで背景として、何気ない日常が描かれる。

劇作家の作品らしく、一つ一つの場面とそこで交わされる会話がとにかく面白い。たとえば、物語の本筋とは関係の無い、DVで逃げてきた主婦たちがお互いを慰め合う場面。いつの間にか、夫の「根の優しさ」を語るのろけ大会になり、笑いつつも、どこかぞっとする。どの場面も舞台上で演じられている光景が目に浮かぶ(MONOファンなら、具体的な配役まで思い浮かぶかも)。

大きな物語の予感を感じさせながら、作中の描写は日常にとどまる。その余韻の残し方も演劇的。本当の物語は、この本を閉じた後、読み手の想像力の中で続いていく。

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