なつかしい芸人たち

色川武大「なつかしい芸人たち」

「麻雀放浪記」の阿佐田哲也のイメージで色川武大の「狂人日記」や「百」といった小説を読むと驚かされるが、さらにこうしたエッセイを読むと、その芸能分野の造詣の深さに再び驚嘆させられる。その上で、こうして著者の人生観は育まれたのだと、読みながらストンと腑に落ちる。

幼少期から思春期にかけて浴びるように触れた大量の文化。その後の戦争を経ての無頼の日々。著者の作品には“落ちこぼれ”としてのコンプレックスと、それゆえの他者に対する優しいまなざしが通底しているが、本書でも、スターとして晩年まで輝いた役者より、身を持ち崩したり、忘れられてしまった芸人たちに共感を寄せている。

栄枯盛衰、おごれる人も久しからず、月満つれば即ち欠く。演芸や演劇の世界は記録に残らないし、記憶は一代で消えてしまう。

エノケン、ロッパ、ターキーといった一時代を築いたスターから、忘れられてしまった奇人・変人まで。幼少期から通い続けた浅草での思い出を中心に綴っていく。資料を引用しての評伝ではなく、あくまで著者自身の回想にとどまるが、その筆は鮮やかで、さらっとしているのにあたたかい。

  

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