奥野修司「ナツコ 沖縄密貿易の女王」
終戦直後の沖縄に現れた数年間の大密貿易時代に、太陽のように存在した夏子。
八重山は戦前、戦中を通じて台湾経済圏に属し、終戦後は米軍支配下で放置されたことで、「黄金の海」に浮かんだ密貿易の中心となった。日本の辺境となった現在からは想像できないほどの繁栄の時代。アメリカ世でもヤマト世でもない、ウチナー世を象徴しながら、資料に残らなかった38年の生涯。
歴史はただ存在するものではなく、語られ、文字にされて初めて存在する。
聞き取りのみで人の一生をよくここまで掘り起こしたものだと思う。取材の最中に関係者が次々と鬼籍に入っていることを考えると、最後のタイミングだったとも思える、ノンフィクションの力を感じる一冊。