臣女

吉村萬壱「臣女」

夫の不倫をきっかけに精神に異常を来し、身体の巨大化が始まった妻との日々。

およそ人間とは思えないサイズまで肥大化していくという非現実的な設定だが、一人称の筆は、その妻との生活の苦労を淡々と、グロテスクに綴っていく。

膨大な食料の調達と排泄物の処理に追われ、近所の好奇の目に悩まされる。めったに言葉を発さなくなった妻の小さな変化に一喜一憂する。

巨大化する妻という設定は、他者という存在の重荷や、共依存的な夫婦関係のメタファーとして読むこともできるだろうが、むしろシンプルに、人は変わっていく、その時にどう関係を結び、維持するかという普遍的なテーマを扱っていると感じた。

最後の場面はこれでもかというくらい感傷的。ストレートで、ピュアな(それはとりもなおさず独りよがりとも言える)ラブストーリー。

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