ある一日

いしいしんじ「ある一日」

出産の一日を描いた短い“私小説”でありつつも、マジックリアリズム的な奥行きを持った作品。男性が出産を真正面から描くという不可能な挑戦を、慎二と園子、生まれ来る「いきもの」の間を視点が行き来し、溶けあっていくイメージで完成させている。

過去の記憶がとりとめもなく流れ、透明と不透明の間をゆらゆらと行ったり来たりするような、不安定な街の景色。ふっと感じる不安や孤独感、安堵や寂寥、そうした感情を文章で捉えるのがとても巧い。

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