老ヴォールの惑星

小川一水「老ヴォールの惑星」

個人的に、SFはミステリー以上に未開拓のジャンルだけど、たまに読むと刺激を受けることが多い。思考実験の場として、いわゆる“純文学”以上に人間を描いている作品がある。

表題作「老ヴォールの惑星」のほか、「ギャルナフカの迷宮」「幸せになる箱庭」「漂った男」の計4編。どれも傑作。

滅びゆく惑星の知的生命体が、情報の伝達によって個体の死を超越し、遠くの別の星にメッセージを残そうとする様子を描く表題作が感動的。他者に記憶を残そうとすることは、そのまま人間性とは何かということをも示している。

「ギャルナフカの迷宮」は、巨大な地下迷宮に投獄された男が、そこに新たな社会を築いていく過程を通じて、人間らしさとは何かを描く。

宇宙に進出した人類が、仮想現実技術が発達した文明と出会う「幸せになる箱庭」。完全に希望通りの人生を実現できる仮想現実の世界が目の前に現れた時、それに我々はどう応じるか。

そして最後の「漂った男」。ある星に墜落し、茫漠たる海洋を漂流し続ける男。母星の人々と通信で話すことはできるが、救助の見込みはない。穏やかな海で、栄養価の高い海水が命を保ち続ける。未来も無ければ、乗り越えるべき現在も無い。命だけがある。その状況で人はいかに生きるか。それは人生の意味とは何か、という問いを突きつけてくる。

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