西行

白洲正子「西行」

西行の評伝。後半からはゆかりの地を訪ねる紀行文の色が強くなる。西行は歌を詠みながら日本各地を漂泊した。武士でありながら出家し、そしてなお俗世への思いも捨てきれない。自分の欲望を持てあましつつ、それを受け入れて生きる。大変人間的な人物で、自らが歌を詠むことを仏を彫る心地に喩えた。

「願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ」といった感傷的な歌(よく辞世の句と勘違いされているけど)を残しているかと思うと、晩年の「年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山」には、生きながらえたことへの素直な感慨が詠われているし、「風になびく富士のけぶりの空に消えて行方も知らぬわが思ひかな」には、自身の心も世界も諸行無常という境地が現れている。

和歌を解する教養は無いけど、それでも西行の歌には心に響くものがいくつかある。それは技巧や耽美ではない素直な言葉が綴られているからだろう。

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