世界最低最悪の旅

蔵前仁一編「世界最低最悪の旅」

終わってみれば、旅はトラブルこそが面白い。下痢で悶絶し、ハードな移動で消耗し、行く先々で騙され、たかられ、それでも喉元過ぎれば何とやら。トラブルの無い旅は、きっと印象にも残らない。そんなバックパッカーの失敗談や悲惨な話を集めた一冊。

収録されているのは主に80~90年代に雑誌「旅行人」とその前身のミニコミ誌「遊星通信」に投稿されたもの。読者投稿なので、一本一本が全て面白いというわけではないが、自分も経験したこと、あるいはどこかで聞いたことのある話ばかりで、読みながら懐かしい気持ちになった。中には後に旅行作家になった人の投稿もあって興味深い。

安食堂でメニューを見ても言葉が分からず、適当に注文したら無茶苦茶なものが出てくる話は旅の定番。インドでおつりの札をすり替えられ、エチオピアのバスターミナルでは未明の開門と同時に席の争奪戦。中国の駅の切符売り場は、担当者の気分次第。何時間も並んで「没有」とあしらわれ、もう一度並び直すと何事も無かったかのように買えるという不条理は多くの旅人が経験したことだろう。

それにしても、パキスタンのある安宿で、夜中にタンスが動いて奥から屈強なゲイの男が侵入してくるという噂は、こんなに前からあったのか。

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1988年に創刊したミニコミ誌「遊星通信」は、90年代以降のバックパッカーの流れを作ったと言える雑誌。創刊時は計12ページ、発行部数50部。その後「旅行人」と名を変え、本格的な旅行雑誌としての体裁を整えていく。「旅行人」の雑誌や出版物は、それまでの“自分探し”のような旅ではなく、興味があるから旅に出る、楽しいから旅をする、というスタイルを一般化した。

当時、自分は「旅行人」を購読していたわけではなかったが、旅行人のガイドブックは愛用していた。各地のバックパッカー宿で見られる情報ノートの延長と言える内容で、間違いの多い(というより国・地域によって質のばらつきの激しい)「地球の歩き方」や「Lonely Planet」よりずっと参考になった。

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