山窩は生きている

三角寛「山窩は生きている」

戸籍を持たず、隠語を使い、簑直しや竹細工を生業とする神代からの漂泊の民―サンカという幻想を確立し、自らもそれに夢中になってしまった三角寛の短編集。

フィクションとノンフィクションの区別も無く、学術的にはあまり価値の無い文章だろうけど、読みつつ不思議と引き込まれる。

サンカの瀬振を訪ねたエピソードを綴った表題作などに滲む、美化と蔑視が入り混じったまなざし。

サンカは三角が書いたような特定の民族、集団、階層としては存在しなかったとされるが、日本列島には多様な漂泊民、あるいは漂泊と定住の境界を往き来する人々がいたはず。自由や古代への憧憬とも言えるサンカ像は、それらの人々に投影した、三角自身と当時の社会の願望のようなものだろうか。

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