吉田簑助「頭巾かぶって五十年 ―文楽に生きて」
吉田簑助の自伝と芸談。あらゆる芸能の中でも特に厳しい世界の、最も苦しい時代を生き抜いて来た人だが、そこからこぼれる言葉は素朴な温かみにあふれている。幼い頃から人形浄瑠璃の世界に遊び、芸のこと以外は何も知らない、来世も人形遣いになるという淡々としながらも重みのある言葉。決して苦労を声高に語りはしない、その姿勢は、半世紀を斯道に捧げてもなお上を見続けているからだろう。優れた人形遣いだけが表現できる、生身の人間には無い透明な情、それがどこから来るのか分かった気がする。土門拳や入江泰吉が撮った幼少期の写真が載っていて、それだけでも感動。