SAVE THE CATの法則

ブレイク・スナイダー「SAVE THE CATの法則」

ハリウッドの脚本家による脚本術の本だが、優れた物語の構造分析としても読むことができ、脚本や小説だけでなく、プレゼンテーションや講演、論文執筆まで、幅広い分野のヒントになりそう。何より文章がユーモアに満ちていて、読み物としても非常に面白い。

著者はまず「どんな映画?」という問いに対する答えを徹底的に詰めてから執筆に取りかかることの大切さを説く。1行の紹介文(ログライン)で観客の興味を引けなければ、その物語が広く受け入れられることはまず無い。その上で、良いログラインには皮肉が含まれていると指摘する。

警官が別居中の妻に会いに来るが、妻の勤める会社のビルがテロリストに乗っ取られる(「ダイ・ハード」)
週末の楽しみに雇ったコールガールに、ビジネスマンは本気で恋をしてしまう(「プリティ・ウーマン」)

次に著者は、物語を10のジャンルに分け、書こうとしているジャンルの先行作品を研究するように言う。

「家のなかのモンスター」「金の羊毛」「魔法のランプ」「難題に直面した平凡な奴」「人生の節目」「バディとの友情」「なぜやったのか?」「バカの勝利」「組織のなかで」「スーパーヒーロー」

「金の羊毛」は何かを求める旅を指す。物語の構造に着目した独特の分類だが、古今東西の物語はこのいずれかに分類できる。

さらに著者は独自の「ビートシート」(脚本構成のテンプレート)を分量配分とともに示し、各場面で感情の起伏や葛藤を盛り込むことなど、物語の構築の仕方を丁寧に解説する。ヒットしたハリウッド映画がほぼ共通の構造を持っていることが分かる。

1.オープニング・イメージ(1)
2.テーマの提示(5)
3.セットアップ(1~10)
4.きっかけ(12)
5.悩みのとき(12~25)
6.第一ターニング・ポイント(25)
7.サブプロット(30)
8.お楽しみ(30~55)
9.ミッド・ポイント(55)
10.迫り来る悪い奴ら(55~75)
11.すべてを失って(75)
12.心の暗闇(75~85)
13.第二ターニング・ポイント(80)
14.フィナーレ(85~110)
15.ファイナル・イメージ(110)

タイトルの「SAVE THE CATの法則」は、猫を助ける場面を入れること=主人公を悪人であってもどこか共感できるような人物にすることの大切さを説いている。そのほかに著者は主人公を造形する際の必須の条件として、その状況で一番葛藤する、感情の変化が最も大きくなる、誰もが共感できる原始的な動機を持つ、などを挙げている。

実践的な執筆ガイドであると同時に、「なぜこの話はつまらないのか」が分かるようになるという点で鑑賞ガイドとしても非常に優れており、映画や小説、漫画など物語が好きな人に広くお勧めできる一冊。

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