性風土記

藤林貞雄「性風土記」

古本で購入。“性”の遠野物語。

記録に残らないぶん、より不変なものと考えられがちな性風俗。この本の出版は昭和の半ば、紹介されている習俗は昭和初期に記録されたものが中心だが、旅人に身内を夜伽に出す貸妻、意味不明な柿の木問答など、現代からすればかなり衝撃的なものばかり。

処女を半人前と考え、初夜を舅に捧げる、あるいは見ず知らずの他人や年長者によって女にしてもらって初めて嫁にいけるという習慣なども信じがたいが、処女を神に捧げる信仰の転化と考えれば不思議ではない。

各地にあった嫁盗みの風習も興味深い。掠奪婚だが、親に通告し、仲人による交渉の間は女の貞操が守られるなどのルールがあったという。父権性と自由恋愛の妥協点と考えれば、婚姻様式の変化として重要な一形態と考えられる。

性神信仰も現在は一部で奇祭として残るばかりだが、かつては決して珍しいものではなかったのだろう。

こうした民俗の採集は精度がちょっと頼りないため、ある程度は割り引いて考えないといけないが、当たり前のような価値観、普遍的に思える感情も実は歴史の浅いものなのだと思い知らされる。

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