死にがいを求めて生きているの

朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」

ゆとり教育を挙げるまでもなく、平成という時代は(表面的には)競争や対立を忌避してきた。その平成が終わった今、世の中はどうしてこんなにギスギスしているのか。

ある事故で意識を失ったままの智也と、彼を献身的に見舞う雄介の2人を軸に平成に育った男女の姿を描く。表面上は親しげに接しながら、言葉の端々でマウントを取り合う様が生々しい。

「最近何してんの」という気さくな問いかけの背後に「どうせ何もしてないだろ」というマウントが潜む。こうしたちょっとしたいやらしさを書くのが著者は抜群にうまい。

争いを忌避する社会は穏やかで優しい人々を増やしたかもしれない。一方で個人の承認欲求が肥大化し、注目されたい、生きがいを感じたい、キラキラしたい、という思いはインターネットという発信ツールを得て際限なく拡大し始めた。ある者は自分が生きている価値がある人間だと証明しようとし、ある者は居心地のいい世界にこもろうとし、新たな対立が社会の分断を深めていく。

「対立」をテーマとする8組の作家による競作企画「螺旋プロジェクト」の一作で、他の作品と関連するキーワードも登場するが、単独で楽しめるし、十分読み応えがある。

コメントを残す