ラリー・ブルックス「工学的ストーリー創作入門」「物理学的ストーリー創作入門」
著者は、考えながら書き、書き直しを重ねる手法(パンツィング)を否定し、物語にも原則があると繰り返し述べる。アウトラインを固めずに書いている作家でも、無意識にその原則に従っているのだと。その上でストーリーを構成するものを「コンセプト」「人物」「テーマ」「構成」「シーンの展開」「文体」の六つのコア要素に分け、それぞれにおける逆らうことができない物理法則を解説する。
プロットポイント1、ミッドポイント、プロットポイント2などでの物語の展開のさせ方など、言葉は違っても「SAVE THE CATの法則」などに書かれていることと基本的には同じで、こうした本を読むと、ハリウッドをはじめ、欧米では脚本や小説執筆の定石が確立されていることに驚かされる。日本では似たような趣旨の本でも内容は曖昧な精神論に終始したり、小説論、文学論といった抽象的なものが多いのと対照的だ。大衆小説の伝統は決して日本の方が浅いわけではないので、これは一種の文化、伝統的な価値観の違いかもしれない。
著者は物語を大きく四つの段階に分け、以下のような構成を提示する。
1.セットアップ
プロットやバックストーリー、人物の共感をセットアップする
<フック>
関心を引きつける出来事
<インサイティング・インシデント>
流れを変える劇的な出来事
<プロット・ポイント1>
主人公の行動に意味が与えられ、物語の方向性が定義される
2.レスポンス
主人公の反応を描く
<ピンチポイント1>
読者に敵の本質を認識させる
<ミッドポイント>
新情報を提示し、流れを変える
主人公と読者の認識が変わる
3.アタック
主人公が積極的な行動に移る
<ピンチポイント2>
敵と対峙する
<プロットポイント2>
新しい情報が提示される最後の箇所
必要な情報が全て示され、以後は主人公のアクションのみが続く
4.解決
主人公とは狭義のヒーローに限らない。物語に読者を引き込む手法は小説や脚本だけでなく、ノンフィクションやエッセイ、論文、スピーチを含む全ての文章に応用できるだろう。
続編の「物理学的ストーリー創作入門」は「工学的」と重なる部分も多いが、より踏み込んだ内容で、合わせて読むと効果的(むしろ「物理学的」の方が実践的で役に立つかもしれない)。
充実した内容だが、一つ気になったのは、著者自ら述べている通り、著者の文章は非常に饒舌で前置きが長い。ストーリーの構成、力学には非常にうるさい一方で、この本の構成はそれほど練られておらず、思いのままに書いているような印象。