土に贖う

河崎秋子「土に贖う」

北海道を舞台に、移り変わっていった近代産業に従事した人々の姿を描いた短編集。「蛹の家」(養蚕)、「頸、冷える」(ミンク飼育)、「翠に蔓延る」(ハッカ栽培)、「南北海鳥異聞」(海鳥採取)、「うまねむる」(装蹄)、「土に贖う」(レンガ工場)。最後に現代を舞台とした「温む骨」。どの短編も短い中に産業の栄枯盛衰と人々のドラマが詰まっている。

最後の「温む骨」は表題作との連作で、全体のエピローグにもなっている。先人たちの無数の人生の上に立っている平凡な私たちを肯定するとともに、作家自身の決意のようにも感じられる一編。

著者は1979年生まれ。直接体験していない(それどころか父母の世代ですらない)時代をこれほど鮮やかに描くことができる実力に驚かされる。予備知識なしで読み終え、著者のプロフィールを見ると酪農業に携わっているようで、地に足の着いた筆はそうした背景で育まれたのだろう。熊谷達也の「邂逅の森」のような大きな作品を書けそうな作家で、今後が楽しみ。

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