妻の体から発芽して文字通り森になる、というとカフカや安部公房的な不条理小説のようだが、不条理を描くというよりはストレートな恋愛小説。森はメタファーを具象化した小説的な仕掛けに過ぎない。ただ、その光景は美しい。
恋愛小説を書く作家とその妻の関係が物語の軸となる。作家は妻との関係を下敷きとした赤裸々な小説で評価されたが、創作講座の生徒と浮気してしまう。夫婦のコミュニケーションは断絶し、やがて妻は森になる。
終盤、作家は森に分け入って妻を見つける。小説内における男女間の描写の不均衡など、ジェンダー論、小説論を媒介に作家と妻は再びコミュニケーションを復活させる。主題の扱い方が急にストレートになって生硬な印象も受けるが、だからこそ愛おしい場面でもある。