井原今朝男「中世の借金事情」
中世以前の社会は、売買による経済よりも貸付取引による経済が先行していた。古代の出挙米をはじめ、中世には年貢公事なども請負者による前納、代納の仕組みが整い、貸借関係が社会を支えていた。ただその債務債権関係は現代とは大きく異なり、質流れには債務者の同意が必要で、返済の期日を過ぎても担保の所有権は移転せず、何年経っても返済すれば元の持ち主に返却されたという。また利率に制限は無かったが、利息は元本の2倍までとする総量規制がされ、利子は無限に増殖するものではなかった。
資本主義経済下での借金は階級分化を加速させるが、前近代の経済において貸借は社会の安定装置であり、階級分化を抑制する働きを持っていた。著者はこれを債務者保護が現代よりも手厚かったとして肯定的にとらえているが、古代以来の土地売買禁止と同じく、社会変化を抑制するために生じた慣習法で、一概に良いものとは言えないだろう。
学術書としてはやや乱暴な考察が気になるものの、近世以前の社会の見方が変わる刺激的な一冊。