2016年上半期の直木賞受賞作。短編のお手本とでもいうような、良質な6編の物語。
表題作は、海辺の理髪店に客として訪れた青年が、店主の語る半生に耳を傾ける。短い語りの中に人生の哀歓が凝縮され、ラストも鮮やか。
そのほか、母娘の関係を描く「いつか来た道」、夫婦喧嘩で里帰りした妻が主人公の「遠くから来た手紙」、早逝した娘の代わりに両親が若者の格好で成人式に忍び込む「成人式」など、いずれの短編も家族の関係が題材。時に胸がざわめき、時に胸が締め付けられ、笑みがこぼれ、ほろりとする、喜怒哀楽の詰まった作品集。