八つ墓村

横溝正史「八つ墓村」

もはや古典だが、松本清張より古さを感じさせない。 田舎の閉鎖的な雰囲気と、物語そのものに引き込まれる。漫画でも、ドラマや映画でも、この作品のオマージュというべきものがたくさんあるが、原点にして完璧。

妻と最期の十日間

桃井和馬「妻と最期の十日間」

人を喪うということに向き合う看取りの日々。 宗教的な部分で、著者の考え方に違和感を感じる部分もあるが、些細なこと。真に迫った記録。

新釈 走れメロス 他四篇

森見登美彦「新釈 走れメロス 他四篇」

上手いな~。読んで面白いだけでなく、感心してしまう出来。

この人の文体は、古典小説の真似と、大学生のくだらないノリが上手く混ざり合っている。巧みな名作のパロディに終始にやにや。

アフリカ 苦悩する大陸

ロバート・ゲスト「アフリカ 苦悩する大陸」

アフリカの抱える問題が非常に分かりやすく網羅されている。自由主義経済の万能性を信じすぎている気がするが、歴史的経験からすると、途上国が経済成長するためには弊害も含めて自由化を進めるしかないのかとも思える。

スリー・カップス・オブ・ティー

グレッグ・モーテンソン「スリー・カップス・オブ・ティー」

K2登山に失敗したアメリカ人の青年グレッグが、助けてくれたパキスタンの人々のため、山奥の村々に学校を建てる活動を始める。だまされたり、追放のファトワを受けるなど何度も窮地に陥りながらも、奇跡のような出会いを重ね、活動は広がっていく。
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中島岳志的アジア対談

「中島岳志的アジア対談」

「アジア対談」というタイトルだが、内容は貧困や教育、宗教の問題から「保守とは何か」まで幅広い。新聞に連載されたものだが、新聞らしからぬ、読み応えのある内容。

著者は自称保守だが、右からは左と批判を受けるインド研究者。対談相手も佐藤優から吉本隆明、西部邁、藤原和博と多様で、右から左まで様々なレッテルを貼られた人たちだが、読んでみるとほぼ全員に共通する部分があり、共感できる部分がある。

1Q84 BOOK3

村上春樹「1Q84 BOOK 3」

おそらく、この物語はこれで完結したのだろう。BOOK3で意外なほど、おとなしく着地してしまった。BOOK1、2を読み終えた時は未完成だと感じたが、通読すると、2で一応すべての要素は出尽くし、完結していたような気もする。
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戦場のハローワーク

加藤健二郎「戦場のハローワーク」

軍事ジャーナリストや戦場カメラマンになるには……を紹介する形で著者の戦場体験を書いたルポ。パフォーマンスなのか自己顕示欲が強いのか、「戦争はチャンス」「楽しい」と言い切ってしまう偽悪的な姿勢が鼻につく。でも、こんな人もいるのかと開き直って読めば面白い。

戦場にいるのも人間なら、普通の青年も人格破綻者もいて、そこに“日常”が生まれる。戦場が悲惨一色ではないことを伝える意味では出色の出来。

沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史

佐野眞一「沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史」

「月刊PLAYBOY」の連載をまとめた約650ページの大作。沖縄やくざの系譜や琉球独立論、知事選の泡沫候補など、忘れられた沖縄の現代史を訪ね歩く。

沖縄を“被害者”として神聖化するのではなく、戦果アギヤーや軍用地主の存在、奄美出身者への苛烈な差別なども取り上げている。
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晴れた日は巨大仏を見に

宮田珠己「晴れた日は巨大仏を見に」

日本各地に点在する巨大仏を訪ねる旅。誰がどうして建てたのか、のようなガイドブック的視点はほぼ皆無で、ただひたすら風景とのミスマッチを楽しんでいく。

宮田珠己本としてはややパワーに欠け、「私の旅に何をする」のようなユニークさ、有無を言わせないノリが少ないのが残念。面白いけど。